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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3532号 判決 1995年7月21日

控訴人(原告) X1

控訴人(原告) X2

右両名訴訟代理人弁護士 酒井圭次

被控訴人(被告) Y

右訴訟代理人弁護士 仲西二郎

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

(一) 被控訴人は控訴人X1に対し、金一六八万一五三三円及びこれに対する平成二年七月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被控訴人は控訴人X2に対し、金一〇六万三三四七円及びこれに対する平成二年七月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文に同じ

第二  事案の概要

原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正をする。

一  原判決二枚目表四行目から五行目にかけての各「原告」をいずれも「被控訴人」と、「被告ら」を「控訴人ら」とそれぞれ改める。

二  原判決二枚目裏三行目の「結婚」の次に「(ただし、婚姻届出は翌二二年、乙六の1)」を、同八行目の「被告は、」の次に「後記各契約発効の日ころ、」をそれぞれ加え、同行の「簡易保険契約を締結した」を「簡易保険契約の各締結手続をした」と改める。

三  原判決五枚目裏八行目の「したがって、」から同一〇行目までを「解約還付金についても、その受領権者は控訴人らであり、被控訴人が控訴人らに代わって受領したにすぎない。」と改める。

第三  証拠

原、当審での本件記録中の各証拠目録の記載を引用する。

第四  争点に対する判断

一  保険契約において、保険証書に保険契約者として記載された者と、現実に契約締結手続をなしたのみならず、その保険証書及び届出印章を保管し、保険料についても自己の出捐で支払を継続してきた者とが異なる場合に、その双方の間でいずれが保険契約者としての権限を有するかを決すべきときは、右支払等をなしてきた者が保険証書上の名義人の代理人等として右行為をしたものと認め得るような事情のない限り、保険契約者は、保険証書に保険契約者として記載された者ではなく、現実に右支払等をなしてきた者であると認めるのが相当である。

二  本件においてこれをみるに、前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件各保険契約の契約手続をしたのは被控訴人であり、その保険証書及び届出印章も被控訴人が保管してきたものであること、他方、控訴人らは、契約当初から解約時まで終始、契約等に何らの関与もせず、もとより保険料についても全く出捐等をしなかったものであることが明らかであり、さらに、証拠(甲四、乙一、二 六の1、一〇、一三、一四、被控訴人本人)によれば、本件各保険契約の保険料についても、被控訴人が自己の出捐によりその支払を継続してきたものと認めることができる。右保険料の出捐に関し、控訴人らは、右保険金の支払に充てられたのは、被控訴人の収入のみでなく、Aの収入等も含めた一家全体の収入であった旨主張するが、前掲各証拠によれば、右保険料の支払期間中のA一家の収入としては、被控訴人の給料又は年金収入の他にはAの年金収入と家賃等の収入しかなかったこと、少なくとも被控訴人がAらと別住居で暮らしている間は、右Aの年金収入と家賃収入に相当するか又はこれを超える金額をA又は控訴人X2に渡していたこと、被控訴人は当初から右保険料を自ら支払う意図を有しており、また同人は非常な倹約家であったことから、右保険料をその給料又は年金収入によって支払うことは容易であったこと等の事情が認められることに照らすと、前示のとおり推認し得るから(控訴人X2の供述中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右推認を左右するに足りる証拠はない。)、控訴人らの右主張は採用の限りでない。

三  もっとも、控訴人らは、本件各保険契約は、被控訴人が控訴人らの代理人又は事務管理者としてなしたもので、その保険契約者は、保険証書の記載のとおりの控訴人らと認められるべきであると主張しているところ、右のように被控訴人が自己の出捐で保険料等を支払ってきているような場合でも、親族間の情宜等の理由により、保険契約上の権利をすべて控訴人らに贈与する等の意思で控訴人ら主張のような行為をすることも考えられないではなく、控訴人X2も、その本人尋問において、被控訴人が控訴人X2に対し控訴人X1やBの結婚資金のために簡易保険に入ると告げた旨供述しており、甲四(別件における被控訴人の本人尋問調書)における被控訴人の供述記載中にも一部これに副う部分がある(なお、控訴人X2の供述中には、被控訴人が家を建てる際に控訴人X2から借りた借受金の返済のために簡易保険に入る旨告げた旨の部分もあるが、この点は、被控訴人本人尋問の結果に照らしにわかに借信しがたい。)。

しかしながら、他方、被控訴人は、本件の本人尋問では、簡易保険に入ったのは自らの貯蓄目的であったとも供述しているところ、前示のとおり、被控訴人は、本件各保険契約において、一人で保険料の支払をするのみならず保険証書や届出印章の保管をなし、終始これを現実に支配してきたものと認められるのに対し、控訴人らは、控訴人X2が被控訴人から前記のとおり聞いたことがあるだけで、他には右契約等に何らの関与もしていないことからすれば、被控訴人の前記発言は、たかだか、将来控訴人ら及びBが結婚その他でまとまった金を必要とするような場合には本件保険契約の保険金等で援助する心づもりのあることを告げたにすぎないものと解するのが相当であり、名義上のみならず実質上も控訴人らを保険契約者とする意思が被控訴人にあったことを確認し得る証拠もないから、この点に関する控訴人らの主張も採用しがたい。

そして、本件全証拠によるも、他に前記一の事情を認めるに足りる証拠はない。

四  以上によれば、本件各保険契約の保険契約者は被控訴人であって、その解約をなし解約還付金を受領する権限を有するのも被控訴人であるというべきであり(簡易生命保険法六九条参照)、したがって、控訴人らが本件各保険契約の保険契約者として解約還付金の受領権限を有することを前提とする本件各請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がない。

第五  以上の次第で、控訴人らの本件各請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴をいずれも棄却することとし、民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 熊谷絢子 小野洋一)

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